第5回世界選手権2002 イタリアワールド 川添由紀

文 川添由紀(B1 ブラインドヘルムス)

第5回のワールドブラインドセーリング選手権大会がイタリアのガルーダ湖という湖で行われて、私はB1クラスのヘルムスとして出場しました。私にとってワールドの出場は2回目ですが、ヘルムスとしては今回初めてだったので、7レースすべてをちゃんとこなせるか不安な気持もありましたが、行われた全レースを無事にフィニッシュする事ができて、ほっとしています。

レース艇はプロタゴニストというもので、抽選の結果、私たち日本チームはB1、B2クラスとも6号艇のグリーンボートを使用することになりました。このヨットは、大会が始まる前にハーバーにヨットを見に行った時に秋山さんが乗りたがっていたもので、幸先のよいスタートとなりました。プロタゴニスト初めて乗って、私が今までに乗ったことがあるヨットではプラトウに似た感じで、とても早くて敏感なヨットだなと思いました。エクステンションが長いため少し扱いにくいということはあったのですが、微風でも滑るように走って、とても良いヨットでした。

今回の大会は、正直言って、楽しいよりもつらいレースが続きました。今の私には荷が重すぎたということと、世界の壁は高かったということが私の率直な感想です。ヨットレースであんなに精神的ダメージを受けたのは初めてのことです。でも、勉強になったことが多かったので、少しはセーリングレベルを上げるものになっていればいいなと思っています。特に今回は風の強弱があり、しかも風が振れる中でのレースだったので、精神的にとてもつらく大変なものでしたが、今となってみると貴重な経験ができてよかったと思っています。レース前に練習をしていた時、突然風が強くなりヨットがヒールして、私は足を滑らせて落水しそうになりました。この時、ライフラインにつかまっていたので落水はしないで済んだのですが、もしもライフラインにつかまっていなかったら落水していたと思います。これは私が今回経験した怖かった出来事の1つです。残念だったことは、風が吹き過ぎたり無さ過ぎたりで、あまりちゃんとした練習ができないままレースが始まってしまったことと、3日間で7レース行われる予定でしたが、私たちB1クラスは6レースで終わってしまったということです。

レース全体を通して、チームのメンバーの重要性、スタートの重要性、1レースの重みを改めて感じました。そして、ミスをすれば遅くなるということも実感しました。この大会で私がいちばんつらかったのは、レースが始まるまでの待ち時間がかなりあったことでした。いつスタートするかわからないので緊張したまま待ち続けなければならず、時間が経てば経つほど、みんな無言になり、ヨットの中が何となく暗い雰囲気になっていってしまいました。私自身にも余裕がなくて、話すことも見つからず、長くてつらい時間が流れていきました。そんな時、どこかのチームの人が「こんにちは」と話しかけてくれて、ヨットの中が少し和んだりもしました。

1日目は2レースが行われました。第1レースは、風がある所を見つけて、風を拾いながら走らなければならないものでした。このレースは、コース短縮されたことに気づかず5位に終わりました。もしもコース短縮に気が付いていれば4位になれたみたいだったので、ちょっと残念でした。これはレースが終わってから分かったことなのですが、私は実はコース短縮された音を聞いていました。でも、その時はほかのチームがフィニッシュした音なのだと思ってしまっていたのでした。そして、その時はこれからもっと上の順位も取れるかもしれないと思っていたのですが、結局、今回の大会でこのレースがいちばんよい成績となりました。あんな風の中でのレースは私にとって初めての経験で、精神的にかなり疲れてしまい、今後大変なレースが続きそうだなと、とても不安を感じていました。

2日目は第3レースの1レースが行われて、私にとって今回の大会でいちばん楽しいものとなりました。長い待ち時間の末、いよいよスタート5分前となりました。私たちは最高のスタートを切ることができましたが、ゼネラルリコールで再スタートして、2回目もなかなかいいスタートを切りました。スタートしてから1回目の上マークまで、トップ集団の中で走ることができて、本当に嬉しかったです。そして、トップで上マーク回航ができそうだったのですが、このままではマークにアプローチできないということがわかりました。マークに近づくにつれて風も弱くなり、とうとう私たちのヨットは止まってしまい、何をしても動かなくなってしまいました。この時、私たちはマークタッチしていて、周りのヨットから「ジャパン、ジャパン」と言われて、私はどうしたらいいのか分からなくなっていました。

どのぐらいの時間そうしていたのかわかりませんが、何とかヨットが動き出して、タックやジャイブをして360度のペナルティを行って、やっと上マーク回航が終わりました。この上マーク回航の間、私はかなり動揺していて、風上側と風下側がわからなくなってしまっていました。その時、安西さんから「まだそんなに離れていないので大丈夫だから落ち着いて」と言われて、落ち着きを取り戻して走り始めました。私たちは1度は最後に落ちてしまいましたが、フィニッシュまでの間に4艇を抜き、6位という結果に終わりました。これこそがヨットレースの楽しさなのだと改めて思いました。そして、明日もこの風でレースができたらいいなと思っていましたが、そううまくはいかず、3日目の3レースはボロボロのレースとなってしまいました。

こうして、私たちB1クラスのイタリアワールドは8位という結果に終わりました。私はレース終了後、悔しいような、情けないような、何とも言えない悲しい気持になりました。そして、だからこそ勝った時のあの嬉しさがあるのだということを痛感しました。すべてのレースを終えて、イタリアに出発する前の練習の時に日高さんから言われた、「メダルは本当に取る気にならないと取れない」ということの意味がよくわかりました。

私は今、もしもまたワールドに出場するチャンスを得ることができたら、今度はメダルをゲットしたいと強く思っています。そして、どんな状況でも落ち着いたセーリングができるような技術と精神力を身に付けて、もっと楽しいレースができればいいなと思っています。それまで今の気持を忘れずに練習に励みたいと思っておりますので、今後とも皆様のご協力、ご指導、どうぞよろしくお願いいたします。

最後になりましたが、同じチームだった皆様、練習等サポートをしてくださった皆様、いろいろな所から応援してくださっていた皆様、本当にどうもありがとうございました。おかげさまで、普通に日常生活をしていたのでは味わうことのないであろう緊張感の中で、貴重な経験をさせていただきました。